『嘘と涙』

「所詮、血塗られた道だ」
「は?」

ガウェインが唐突に言った言葉に私はすっとんきょうな声をあげる。

「意味、解るか?」
「何を突然……

私は呆然として頭を振る。

「……パーシヴァルの奴……」
「……誰? それ……」

ガウェインの口から初めて人の名前が出た。名前からして向こうの人。誰? 何処かの金髪美女?
胸の奥が黒い炎でジリジリと焼け焦げる。自覚はしている。私は相当のやきもち焼きだと。


「女の人?」

答えないガウェインに私はイラッとした声で詰問する様な声で再度問う。

「……ウゼ……」

パァンッ!

私は思わず彼の頬を打っていた。

「あ……ごめん……」

けれど、すぐに気を取り戻して謝る。涙が頬を伝う。

「やだ……私サイコーに格好悪い……。やだ……こんな自分……。貴方の事なんて行きずり位にしか思わないって決めてたのに……」

ペロ…

温かいモノが私の頬を流れる涙を舐め取った。
びっくりして顔を上げると、ガウェインの底無しに冷たい眼があった。

「何を勘違いしている。奴はジャパニーズアニメオタクの、仕事が一緒なだけの男だ」

それだけ言うとガウェインは煙を吐き出す。別に私を軽蔑したそぶりもない。
何時からこんなになってしまったんだろう。行きずりだけの筈だったのに……。

ゾク…

ガウェインの冷たい手が私の体を這う。
ベッドの中で温まっていた私の体の要所要所を「知っているぞ」、とせせら笑う様に手を這わせる。


私は熱い息をつく。


それしか、出来ない。

「……好き」

涙と一緒に出た言葉に、彼は手を止め、私にキスをした。今までに無い優しい、キス。

そして地獄へと突き落とす。

「……俺の事は忘れろ」

「っどうして!? ……っあ」

「仕事がハネれば国に帰る」

「……っん……無理……言わないでよっ……今……更……っ」

体と心と頭がバラバラになる……。

「俺とお前では住む世界が違う」

「そんなのっ……会った時から分かってるっ」

ブルッ

熱い塊が体を突き抜けて私は高い声をあげて果てる。

ガウェインが私を組み敷き煙草を灰皿で揉み消す。
相変わらず、手だけ冷たい。いや、眼も。

そして私の中にガウェインが熔ける。頭の中が極彩色に彩られ、そしてそれがぐちゃぐちゃに掻き交ぜられる。

この人が好き。

ただ、それだけなのに。

知らずに流れた涙を、またガウェインが舐め取る。

「泣くな」

ギュウッ

抱き締める。

熱い塊が強く、何度も私の中に打ち込まれる。そして私は何度も果てながら泣き続けた。

何が悲しいのか、何が嬉しいのか。

けれど、泣き続ける私にガウェインは一度も「ウゼ」とは言わなかった。
その、彼なりの優しさの表現に私は更に泣く。

カッコイイ女で在りたかった。男に涙を見せずに何でも一人でやっていける女で在りたかった。

無理だった。

灼熱の塊が私の体内に注がれる。


「お前は一人で生きれる程器用じゃねぇよ。どっかの優しい男とくっつ」

ガウェインの残酷な台詞を私はキスをして止めた。
喉元が熱い。涙腺がさっきから緩みっぱなしだ。

「どうしてそういう事言うの?」
「お前を諦める為だ」

ガウェインが呟くが私は鳴咽を堪えるのに精一杯だった。

「何? もう一回」
「お前が俺を諦める為だ」
「馬鹿!」

涙がパタパタとガウェインの裸の胸元に落ちる。

優しい男ならいるじゃない! 私の目の前に! 何も分かってないんだから。

ガウェインは私が泣き止むまで何も言わずに私を抱き締めていた。
刃物の様に冷たい眼は閉じたままで。





その後、彼は私の前から姿を消した。予告通りに。今頃異国の風を受けているのだろうか。
切ない。でも、不思議と淋しさは無かった。私のお腹に宿った命の所為だろうか。

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