「ねえねえ、リィナさん。俺の事占ってよ」
ある晴れた日、中庭でアイリ、ボルガンと一緒に子供達の相手をしていたリィナに、シーナが笑顔で話しかけて来た。
「あら、シーナさん。よろしくてよ」
リィナは微笑を返して子供達に「少し待っていてね」と言ってサンダルの音を少し鳴らしてシーナの方へ向かう。
「少し陽射し強くなってきたから日影に行こう」
シーナの言葉に頷き、城の日影になっている方向へ向かう。
さして会話はなかったが、話さなくても活気のある城だ。騎士団の訓練の声、一際陽気な声と嗅覚を惑わせる食堂。
ホカホカと煙のたつ風呂場。昼間から繁盛している酒場。
どれをとっても、今のリィナにとって大切なもの。
元から根無し草な生活を送っていたのだが、事の流れで大切な“皆の家”になっていた。誰も彼もが家族。大切な仲間。
「いい……天気ね……」
空を仰ぎ、片手で夏になろうとしている太陽を遮る。その姿を眩しく見ながら、シーナは後から抱きしめたくなる衝動を抑える。
抱きしめたい……
好きだ……
大好き……
誰にも取られたくない……
悶々としながら、良さそうな場所を探す。出来れば、誰にも見付からない所。
そしてやはり邪心が心をよぎる。
たっ…・・・
片足が地を蹴った。
ぶつかる様に抱きしめ、日影になっている壁に押し付け、噛み付く様に唇を併せてむさぽる様にキスをする。
やっと……といった頃に、正気に戻った様子でシーナは顔を離す。
「あ……ご、ごめんなさ……」
叱られた仔犬の様な態度に、リィナは叱る気も失せてしまう。そして苦笑する。
「……いつも……なのに、ね」
そう。いつもシーナは何かと理由をつけてリィナを襲っている。
その行為が欲故ではく、きちんと気持ちがあり、
それを上手く表せないのが分かっているからリィナはシーナを責める気にはなれないのだ。
「でも……気をつけて下さいね……」
リィナの少し動揺した声と、金属が擦れる音を耳にしたシーナが振り返ると、
そこには横額に血管を浮かべたフリックが、引き攣った笑みを浮かべて剣を構えていた。
「っどぁっ」
シーナが驚きと焦りに、変な声をあげ、自分も剣を握ろうとしたが、それも一瞬の判断で取りやめて逃げに入った。
「リィナさんっまたねっ」
「コラァッ! シーナ! “またね”って何だぁ!」
鼻息荒く怒鳴るフリックを、苦笑したリィナがいさめる。
「フリックさん、まだ若い子のする事だし……私はあまり構わないから……」
「俺が構うんだ!」
荒い声でフリックが振り向き、リィナを抱きしめる。そしてうって変わって優しい声でリィナの耳元で囁く。
「……どうして俺だけのものにならないんだ……」
「私にはアイリもボルガンもいるし、他にも沢山……沢山、大切な人がいるのよ? それに私の体は一つしかないし」
「……でも……少しだけ……」
そう言ってリィナがフリックの厚い胸板に寄り掛かる。それをフリックは優しく受け止める。
二人だけの秘密の時間。
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