初めは、大人びた娘だと思った。
歳は十歳も離れているというのに、その場で決して精神的ペースを崩さない。
短絡的な自分からみれば、情けなくも「見習わねば…」と思い知らされる時もあった。
特にサウスウィンド脱出の時。自分でも解っているが、感情がすぐに顔や体の何処かに表れてしまう。
そこを、リィナは自分に注意を見せ付けて、上手く脱出する事が出来たのだ。
後ろ姿を見て思う。オデッサもあれくらいの髪の長さだったろうか。だが色は違う。オデッサは明るい茶。リィナは漆黒だ。
だが、戦士として防具を着け、弓を打つオデッサ。リィナは後方でカードでもって戦う。同じ長距離タイプなのに、違う。
だが、何処か――似せようとしている自分がいた。オデッサを失って、何処となく何かを求めていた。
戦いや会議などで頭を一杯にしようとやっきになっていた。だが、心と体は違う。
一日が終わり、自室で疲れた体をベッドに埋め、泥の様にして全てを忘れて眠りたかった。
それでも――
涙が頬を濡らす。
自分が感情高い性格なのも解っている。
あの長い戦いから、どれだけの月日が経った?
酷い顔で酒場に行く時もしばしばだ。それを、ビクトールは心中察して付き合ってくれる。
ニナからの熱烈過ぎる恋愛表現は、嬉しいとも迷惑とも言えない。
ただ、それ程の求愛に応えられる人間なのか? 答えは見付からない。
そして同時にオデッサの突然の死の報告。別れを言う暇もなく、戦いは進む。それが良かったのか、悪かったのか。
一人で居ると、普段張り詰めている自分が崩れ落ちるのが、嫌という程分かってしまう。
霧の深い早朝、唐突に訪れた涙顔を誰にも見せたくなく、城の辺りを何処と無く歩き回る。
――――!?
あの後ろ姿……
走る。全力で。
何時もの防具や荷物を持っていない分、速度は速い。
行くな!
待ってくれ!
地を蹴り、ぶつかる様に後ろから抱きしめ、相手ごと地を滑る。
柔らかい体。
芳しい匂い。
「……く……るしいです……」
「!」
違った。
当たり前だ。
この大馬鹿が。
「悪い……寝ぼけていた……」
体を起こし、相手の腕を掴んで立たせる。
―――ああ、馬鹿が。
よりによって相手はリィナだった。深い霧の中なので、髪の長い女、としか頭に無かった。
「……寝ぼけて……?」
少し困った様な、だが母性を思わせる温かく、優しい顔立ち。
ス……とリィナの手が伸び、フリックの酷い目元を優しく撫でる。
どうにも出来なかった。ガクリと地に膝がつき、こうべを垂れる。
それを、リィナは優しく抱いた。柔らかい胸元がフリックを包む。
涙が、出た。
こんな、みっともない。
「……大丈夫です。霧が隠してくれますから。
それに、私は考え事をしながら歩いていたら、はぐれた猫を見付けて抱いているだけです」
「ふっ…俺は猫か……」
苦笑するフリック。リィナの気遣いが何よりも救いになった。
何時までその時間が経っただろう。
癒されたフリックは、グイッと目元を拭って何時もの顔に戻り、リィナと共に城へ戻る。
心は何時の間にか完全ではないが、晴れようとしていた。
救われた。
そしてまだ自覚はしていない、芽生えた恋心。
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