末裔たちの邂逅


迦陀羅暦 弐千参拾五年。

 風の聖域と挟の、丁度中間あたりに在る大樹海・斗海(トカイ)を沿う街道を、二人の若者が歩いていた。そこは領域的にはもう狭の土地だが、風の聖域の方角から歩いている所を見ると、二人は風の民だろう。

 一人は長身で落ち着いた雰囲気を持っている男だ。男と言うよりは、やや少年寄り…と言った方が良いだろうか。一見は成人男性だが、動作や表情の端々に少年の面影らしきものを見る事は出来る。が、その涼やかな目元はしっかりとした落ち着きを持っていた。

 もう一人は背は平均よりやや小さめ、童顔で表情豊かな少年だ。長身の方と、対等にやりとりしている所を見ると同い年なのだろうが、二人が全く正反対な為に兄弟の様にも見える。

 「狭まであともう少しだな、風是(カゼ)

 童顔の方が嬉しそうに言い、腰に下げた革袋から水を一口飲む。

 風是と呼ばれた少年は、それには何も答えずに黙々と歩く。機嫌が悪い…とも言える様な顔つきだ。

 「そーんな怒るなよぉ。つきあわせた礼はちゃーんとすっからさ」

 どうやら、風是は童顔につきあわされて狭まで旅をしているらしい。

 風是の横顔を見て、悪びれた様子も無く童顔が言う。

 「ああ、別にいいよ羽也斗 (ハヤト)

 やはり無表情でそう答える風是。

 そんな彼はさておき、羽也斗は一人で妄想の世界にはまっている。

 「いっやあああぁぁ…解るかぁ? この気持ちぃっ! 待ってろよぉ!水松(ミル)ゥ!」

 どうやら羽也斗は、違う守護の民の恋人へ会いに狭へ行くらしい。燃えに燃えている、彼の熱いハートが手に取る様に解る。水松という名からして、羽也斗の恋人は水の民らしい。

 一人熱血の羽也斗をやはり無視して、風是は黙々と歩く。と、

 ザッ

 不意に、近くの茂みが大きく揺れて何かが視界に映ったかと思うと、風是は異様な殺気を感じて咄嗟に刀を抜いていた。

 ギイイィ…ン!

 硬質な音がし、刀と刀がぶつかり合う音が静かな街道に響いた。バサリとまくれ上がったマントがる。

 「うわっ!? なっ…なぁ!?」

 羽也斗がいきなりの戦闘に、おぶおぶと後退する。

 風是と刃を交えているのは、頭からフードを被った謎の人物。

 「何者っ!」

 風是が鋭く問う前に、仕掛けて来た人物は刃を引いた。

 「済まない…人違いだった…」

 落胆した声でそう言って刀を収めたその人物の肩を、その頃になって頭に来たらしい羽也斗が、ずかずかと前進すると思い切り突く。

 「おいっ! 何だよお前!」

 羽也斗の突きが意外だったのか、かなりの使い手と思われたその人物はあっけなくそれによろけて尻餅を着く。瞬間、頭に被っていたフードがバサリと落ちて、その容貌が露わになった。

 「あっ…」

 風是と羽也斗は同時に上擦った声を上げた。

 風是をいきなり襲って来た人物は、目に包帯を巻いていた。盲目だ。それに、まくれたマントから見える体は、厚地の服の上からでも女と解る体つきをしていた。

 「わ…悪い…」

 羽也斗が頭をきながらそう詫び、手を差し出す。だが、彼女はそれを見えない事に直後気付いて、その手を所在なく彷徨わせた後にボリボリと頭を掻いた。結局、両方の手で頭を掻いているのでかなり間抜けな姿である。他に何も思い付かなかったのだろうか。

 「いや…非があるのはこちらだ」

 そう言って、盲目の女戦士は一人で立ち上がる。

 白い包帯が厚く巻かれていてどんな顔をしているかは解らないが、見る事の出来る下半分の顔の造作は整っていた。恐らく美人と言える部類だろうと風是は思う。燃える炎の様な色のくせのかかった髪。十中八九、火の民だろう。

 「道に…迷ったのか?」

 親切癖のある羽也斗がそう問う。

 それに女はゆるりと首を振る。頭の高い位置で一つに束ねられている髪が、それにつれて揺れる。

 「人を…捜している。風の男だ。ここは風の聖域と近い。緊張してつい気が立ってしまっていて…風の民の気配を感じて殺気立ってしまった。…済まない」

 もう一度女戦士はそう詫び、焔と名乗った。

 この時勢、女の戦士は珍しかった。女は大抵、平和な場所で働いて暮らしているものだ。旅をするとしても、術者としてだ。自ら剣を取り、危険な外地に出る女など酔狂者とされていた。

 ましてや焔は盲目だ。二人は信じられない物を見る様な思いで、黙って焔を見ていた。だが、先程の奇襲からして剣の腕は確かだ。視覚以外の五感をフルに活用して、日々を生きているのだろう。

 「これから…何処へ?」

 黙って見ているのは失礼だと、ハッと気付いた風是が問う。それに、焔はフードを被り直しながら答えた。

 「大した当ては無い。そいつが何処にいるのか、判らないからな…」

 「一緒に狭に行かないか?」

 焔の言葉が終わらない内に、羽也斗が元気良く言う。

 誰彼構わず打ち解け、すぐに友達になったつもりになってしまうのは羽也斗のいい所でもあり、短所でもあった。誰に対してもこの調子なので、顔はとてつもなく広い。が、一方で羽也斗を「馴れ馴れしい」と煙たがる者もいた。

いきなり思いも寄らない言葉を掛けられ、焔はどう答えたら良いものか黙する。その脇で風是は「また始まった…」と、唇だけで呟いて天を仰ぐ。幼い頃からの親友でありながら、今だこの突発的な行動や言動は予測がつかない。何となく保護者的な立場の風是としては、いつ羽也斗が何をしでかすのかを考えるだけで、心労ものである。

が、どちらかというと口数は少ない方で、進んで人に話し掛けるタイプではない風是にとっては、羽也斗のこの性格は羨ましいと感じる時もあるし、実際これに助けられた事も何度もある。

 「なっ!? そうしよう! 旅は道連れっていうし、一人より三人の方が楽しいし、旅費も浮くし」

 ぺらぺらと喋り続ける羽也斗に根負けしたのか、驚いて黙っていたがはとうとう小さく笑って片手を差し出した。

 「それじゃあ、お言葉に甘えるよ。よろしく、ええと…」

 焔が二人の少年の名を名乗られていない事に気付き、言葉を濁らせると羽也斗が元気良く答えての手を握ってぶんぶんと握手をする。

 「俺は羽也斗! こっちの愛相悪いのが風是。よろしくな」



 あれから三年が経った。

 勿論、『あれ』とは『掟破り』の事件である。忌まわしい風の強い夜。が全てを失った夜。

当時、人々の注目は襲撃され火の手の回った神殿に集中し、焔の家の事など誰も気付かなかった。それでなくても焔の実家は小高い丘の上に孤立していて、隣家とも物凄く隔てられているのだ。発見が遅れたのも仕方が無い。

その様な場所に家を造ったのは、の父がそれを好んだからであった。普段、村の中心部で武器屋をやっていると、自然と雑踏に耳が慣れてしまう。それで逆に静かな所に安らぎの場を求めたのだ。

 二度と光を得る事の叶わなくなったは、翌朝覚醒し暗闇の恐怖と不安に慄いた。辺りは吐き気を催す程の血臭が漂い、破壊された家には獣や鳥が侵入してかつては彼女の家族であった肉塊を貪っていた。全ての事態を認識した焔は、半狂乱になってそれらを追い出した。だが、その頃には両親と婚約者であった兄は、無惨な事になっていた。それについては、焔は目が見えなくて良かったかもしれない。

 絶望と恐怖と不安に、憎しみと憎悪と復讐が勝った。

 焔は手探りで自分の部屋に辿り着くと、やっとの事で服を着、そして最早どれが父で母か解らなくなってしまった肉塊を、必死でかき集めて家の裏手に穴を掘り埋葬した。牙炎は胴と首が離れていたものの、幸いその「形状(かたち)」は留めていたので何とか牙炎として葬る事が出来た。

暗闇の中で、よく知った感触が手に当たった。それを焔は気が狂いそうに痛む目から血の涙を流しながら、優しく撫で続けた。何度も触れ、くしゃくしゃにしては怒られた牙炎の頭髪。

どうにもならない目の痛みと心の痛みに、血の涙と鼻水を垂らして泣き続ける。半開きになった口からは泣き声とも唸りともつかぬ、「ああぁああぁあぁああぁ」という声がずっと吐き出されている。その時の焔の姿を誰かが見たならば、精神を病んでしまったと思われても仕方の無い状態であった。

 震える指先でそっと顔を探る。肉が抉られてぬらぬらとした感触が指先に触れた。だが、構わなかった。頬を撫で、高い鼻梁を辿り、見開かれた両目に辿り着く。柔らかな眼球は、既につつかれていた。そっと、その瞼を閉じさせる。

 「いいの、牙炎のいない世界なんて見えなくてもいいから…」

 焔そう囁き、そっと首だけの牙炎に口付けた。

 血生臭い肉の味がした。

 そして、それを少女であり牙炎の恋人であった焔とともに葬り去った。

 そこにいるのは、ただ復讐と憎しみのみに生きる戦士であった。男でも女でもない、ただの復讐者。その身に駆け巡る狂おしい想いを全て憎しみに変えて、ただ一人の男を追い求めてその命を断つ。ただそれだけの為に存在する者。

そして、家にあった武器を取り、食糧と必要な物を持って焔は手探りに旅立った。目の見えぬ者がそんな無謀な行動に出たら、すぐに死ぬ目に遭うであろう事は承知していた。それでもすぐに行動せざるを得なかった。
 気持ちがはやっていた事もあるし、少し冷静になって考えてみれば誰かがここにやって来れば、すぐに保護されて事情徴収を受けたりなんだりされるのは目に見えている。一度そうなれば、自分の思いのままに行動するのはほぼ不可能になるだろう。そう思い、無謀を承知で行動を起こしたのだ。
 案の定、家を出て歩き慣れた道をなんとか通って、外地へと向かう街道にまで出たはいいが足元がおぼつかないのですぐに死にそうな目に遭った。それを、幸運にも通りがかった行商人に拾われて手厚く介護されたのだ。

 彼らは火の聖域の中を巡回する様にして方々へと行き来している行商人で、焔は手伝いをする事によって、目の見えぬ体に慣れるまで彼らと共に生活をする事を願い出た。商隊の責任者である男と、その妻には全ての事情を話した。『掟破り』の話を聞いて、二人は恐怖し「信じられない」と首を振っていたが、やがて得る事になった情報によってそれが真実という事が判明した。

 勿論、敵討ちなんぞやめなさいと、人の良い夫婦に言われた。だが、焔頑なにそれを拒んだ。「最早、これしか自分の生きる道はないのだ」と言って。やがて、夫婦は焔の意志が何よりも固い事を知ってそれを言わない様になり、隊商の仕事を手伝う焔を黙って見守る様になった。

 初めはろくに歩く事も出来ぬ焔であったが、強靱な精神力と意志の力でやがては通常の人と変わらぬ位にまで動ける様になり、今では研ぎ澄まされた他の感覚が人並み以上の反射神経を生み出した。隊商にいた元・戦士などに剣を学び、焔は二年と半年の間に、盲目という障害を持った少女から女戦士としての変貌を遂げていった。

 戦士としての誇りを持ち、言葉遣いも男の様な簡潔な物言いになった。鍛えられた体はよく引き締まり、二の腕や大腿にはしっかりとした筋肉がついていた。だが、二十歳になった焔の体はそれを上回って女らしい体になっていた。くびれた腰や、筋肉がついているとはいえ華奢な肩幅。

 だが、そんなものに焔は構ってはいなかった。自分は男とか女とかいう前に戦士であり、ただ一人の男に復讐を誓った焔という者だ。それ以外の何者でもない。それが焔の自らに対する言い分であった。

 焔が隊商と別れてから半年。彼女自身も『掟破り』となる事を覚悟で、緋翔という名のあの風の民の男を捜し求めて一人旅を続けていた。その腰に『牙炎』という名の刀を差して。



§§§



 風の聖域の守都・青龍から遙か東に広がる大草原。その中に、ポツリと、全てに忘れ去られた様な程に小さな石造りの寺院跡があった。恐らくは古代の遺物であろう。歴史的資料とするにはいささかそれは質素過ぎ、存在感というものが欠乏していた。かつてそれがきちんとした形で存在していた頃も、この規模の寺院であったならば、小さな集落程度の人々が供物を捧げる場所として使用していた位であろう。

 今、それらは鬱蒼と生い茂った草に征服され、辺りを縦横無尽に駆け抜ける風によって、時折隙間風の様な情けない音を立てるのみであった。その他は完全なる静寂が守られていた。

 否、何者も相手にしない様な殺伐としたこの場所に二人の男がいた。

 低い声で取り交わされる会話が、風音に混じって大草原に散る。

 一人は緋翔

 何者にも縛られる事のない、孤高の王者。自らの意志にしか従わぬ自由なる者。

 それに対峙するのは、緋翔よりはやや背丈が低いものの長身の男。切れ長の目をやや細めて、眼前の緋翔を見詰めている。深い碧色の瞳には、様々な感情がごちゃまぜになっていた。

 「…………緋翔、いつまでこんな事を続けている気だ」

 男が押し殺した声で問う。

 それに緋翔は答えない。少しばかり傾いた石柱に手を当て、大草原に風が吹く様を眺望している。

 「       お前は『掟』を破ったんだぞ」

 男の声に、やや暫くしてから緋翔はそれを一笑に伏した。

 「…………下らん」

 彼の前にとって、『掟』などいうものは無いも同然であった。今まではそれに逆らう必要は無かったので、別に取り立てて気にもしなかった。だが、今は違う。行きたい所へ行く。それが自分だ。何者にもそれは止められない。『掟』など、臆病者共が作りだした取り決めに従う義理は無い。

 今、彼が求めているのは唯一つ。

  焔

 あれから三年が経った。今、焔は懸命になって自分の足跡を探しているだろう。それを思うと体が悦びに震えた。愛する者に求められる喜びが、体中を支配する。だが、緋翔を追い求めるのは焔だけではない。大罪人である『掟破り』を、四族特警が血眼になって捜索している。

 四族特警は、四族の中でも手練れを集めて組織された精鋭達だ。四族の長老会によって決定された『掟』により、大罪人などを捜し出し逮捕し、然るべき処罰を与える為に存在する。その為、四族特警のみは『掟』の例外として、他の聖域に立ち入る事を許可されている。

 例え何者であろうと、緋翔の歩みを止める事は許されない。それが『掟』の生み出した最高刑罰執行人である四族特警であっても、だ。唯一人の女を手に入れる為なら、何だってする。それがこの世の秩序を乱す事であっても、世界中の者を敵にまわす事であっても。

 「……そんなに…そんなにあの女がいいのか?」

 更に押し殺された声が問う。

 「……………」

 わざわざ答えるまでもない、肯定の沈黙。

 「愛し方は他にもあるだろう?」

 男の声に緋翔は笑った。

 「お前には解らんさ」

 ただそれだけの言葉が、男を苦しめた。「俺の抱いている想いが、お前などに解る訳も無いだろう」と、緋翔は言っているのだ。手の届かない者への想いは、男は十分に解っているつもりであった。だが、それを緋翔は軽くあしらう。

 男は息を吐く。

 「         今、挟にいるそうだ」

 苦々しく言った男の言葉を聞き、緋翔は物も言わずに風に溶けた。風にその身を同化させ、風と共に大陸を渡る。高度な術者にのみ許される、風の民独自の移動能力であった。

 男は強く、潔癖そうな薄い唇を噛み締める。

 男の名は青嵐(セイラン)。

 風の聖域にて、緋翔と共に乳兄弟の様にして育った男であった。彼にとって、緋翔という存在は絶対であった。自分には備わっていないものも持ち得る緋翔に、青嵐は心の底から心酔していた。

戦士としての能力なら、青嵐もそこらの戦士では歯が立たぬ程の強さを持っている。が、青嵐は知っている。戦闘能力や筋力・体力などの様なものが自分と緋翔を隔てている違いなどではない事を。
 存在の本質的な所から彼と緋翔は違っているのだ。他の者を近付けもさせない絶対的な強さ、そして王者の如く振る舞い、何者にも頼る事無く生きるその魂。それら全てに青嵐は強く惹かれた。

名実共に、緋翔は風の民の戦士の中で一番の実力者であり、青嵐は二番目であった。だが、その序列に対する嫉妬心や対抗意識などは、欠片もなかった。物心ついた時から既に、青嵐は緋翔に付き従っていたからだ。

自分よりも優れ、明らかに上だと思う者に対して、人はそれに対して徹底的なまでに対抗するか、その影に溶け込んで手の届かぬ憧れを抱きながら物真似をし続けるか、である。しかし、青嵐はそのどちらでもない。どちらかと言えば後者に当たるのだろうが、彼は自分自身をしっかりと保ったまま緋翔に従属している。全てを肯定し、受け入れているとは言え、決して緋翔の言いなりなどではないのだ。

 近い内に、青嵐と緋翔は正式に神殿の守護戦士として仕える事が決定していた。そして、いずれ緋翔は現在の巫女である風流那(カルナ)と夫婦の契りを結び、神殿の実権を握る殿司(でんのつかさ)となる事を、誰もが囁いていた。

 だが、神殿に上がる前に貰った休暇を用いて狭に行ってから、緋翔はその輝かしい未来全てを放棄した。見ず知らずの火の民の女に一目惚れをし、里を出ると言い出した。神殿での役職はどうすると訊いた青嵐に、返された言葉は只一言。「知らぬ」。そして彼は青嵐の前から姿を消し、二度と里に戻っては来なかった。そしてすぐに、火の守護神殿が襲撃された話を聞き、彼はすぐに緋翔を思い起こし彼の後を追ったのだ。

 彼が密かに心に思い描き続けてきた緋翔の夢を、根本から突き崩されて初めこそは愕然とした。だが、緋翔がそうしたいのならしたい様にすればいいとすぐに思い直した。緋翔のいない里などに未練は無い。青嵐が里を後にするのに、何の躊躇いもいらなかった。

だが、彼の絶対者である緋翔がそこまで惚れ込む女というものに、青嵐は引っかかりを感じていた。それ程の価値のある女なのか?巫女というハンデこそ負ってはいるものの、ほぼ完全な女性である風流那を振ってまで?
 仕事や社会的地位などというものは、はっきり言ってどうでもいい。それは青嵐も認める。が、伴侶は別の話だ。彼は緋翔に心酔し、その子供が同様に優れた戦士として育つ事を、もう一つの夢として思い描いていた。それだけは「知らぬ」とは言わせない。

 自分が赴いて、その真義を図る。

 その女が緋翔に相応しいかそうでないか。

 もし相応しいと判断したならば、共に『掟破り』の称号を得てでも二人を祝福してやろう。だが、そうでなければ刃を交えてでも風流那の元へ連れて行く。そして、諦めのつくように女は闇に葬る。例えそれが緋翔の怒りと恨みを買うと解っていても、そうしようと青嵐は心に決めた。

 「取り敢えずは、挟に行くか       

 そう呟いて、青嵐もまた風に溶け狭へと向かった。


 人気の完全に無くなったわびしい寺院跡が、また完全なる静寂を取り戻した。

 風が渡る。

 神代の時代、四神の一人である風の神青龍によって生み出された風。

 その時より絶える事無く、世界を巡り続ける風。


 四神の末裔である四神の民達の運命の輪が回り始めた。

 全ての邂逅。

  

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