「盗賊日記」〜珍道中〜

「盗賊少女とその下僕達」

少女が一人、背を向けてしゃがみ込んでいる。

いや、少女というには少し大人の女性に近いだろうか。
上半分
を覆っているショートマントごしに浮き上がる肩甲骨が、彼女が痩せ型である事を物語っている。
後頭部で一つにまとめられている髪は赤毛だ。


 と、彼女の細い両肩が細かく震えている。何がそうさせているのか…寒さによるものではない。
何か、内なる衝動によって体が震えているのだ。


 しゃがみ込んでいる彼女の脇には二人の男が立ち、二人とも彼女の次の行動・言語を伺っている。
強烈な感情に晒されているであろう彼女の姿を心にとめる所があるのか、
恐らく長く組んでいるパーティーの「いつもの」パターンを待っているのか……
   

 「キラ……」

 そして男の片方が、そっと彼女に呼び掛ける。彼女の名はキラというらしい。
 キラはしばらく無言でうずくまった状態のまま、小刻みに肩を震わせ続けていたが、何かをふっきる様に、ガバッと立ちあがった。

「あぅ……」

よろめく。

どうやら立ちくらみを起こしたらしい。
が、持ち直して二人の男を振り向くと、ずっと喉に詰まっていた言葉を解放する。

「金だああああぁああぁああぁあぁぁっ!金!カネ!かねえぇぇぇ!!!」

喉も裂けんばかりに歓喜の絶叫をする。そして雨乞いダンス如く、ズンドコズンドコと踊り出す。
黙っていれば可愛い部類に入るであろう顔は、だらしなく緩みきり、
口端からヨダレが垂れそうになったのを、危うい所で乱暴に片手で拭い取り    

あ? こっちに来た! うわっ……うわっ……

「ちょっと! さっきから勝手にものろーぐつけないでよねっ! これはあたしのための、あたしによる! あたしの! 話なんだから!」

マイクと主導権を奪われたので、私は退散する事にする。あ、いや、しかし彼女の紹介ぐらいはしておこう。

「いいんだってば! コラ!」

 いてっ。あ、コホン。

彼女の名はキラ・セビリア。疑う事もない、外見をみればすぐに分かる程の盗賊ぶりである。あっ!?
 いてっ。殴るなって! ホントの事だろ! ゴホン。三度の飯より金が大好き。金、金、金、の金の亡者であぐはぁっ!

「えー、皆様今日は。突然、脳出血で倒れた司会に代わり、ア・ナ・タのキラがお送りいたしまぁす、
これからの物語は、敏腕美少女盗賊
とその下僕達のお話でございまぁす」

「………異議あり」

格好つけて眉間に人差し指を当てて、そう言ったのはジーグ・リングローズ。あたし達はリンって呼んでる。
 瞳は本人の人柄を表していない綺麗な青。で、白銀の髪。ちょっと見ればどっかの馬鹿王子ぐらいには見える。
 中肉中背で、顔はまぁ、三流美形の類には入ると思う。

「三流!?」

あ、ショック受けてら。

そいで、リンは戦士で得物は剣。馬鹿みたいな性格にしては、なかなかの腕をしてるんだ。
 ホラ、誉めてやったんだからもちっと嬉しそうな顔しなって。

 いいトコの坊ちゃんらしいんだけど、ただ今勘当されてるトコ。
 何で勘当されたかっちゅーのも、あたしがこいつのコトを馬鹿呼ばわりしてるのも、理由はただ一つ!

ナルシスト耽美主義女ったらし

こいつに引っ掛かる女もどうかしてる。自分の顔、鏡で見てうぅっとりしてる馬鹿者なのになぁ…。
 やはり、パッと見の外見にだまされるのかなぁ…。まぁ? 
 あたし達は、こいつの女癖の悪さのお陰で、何度寒空の下で野宿をした事か…。っはあああぁああぁ。

あ、隠れてる。
 反省する位の甲斐性あんなら、二度とすんなっちゅーの。

「……………腹減った」

ののーんと現れた(さっきからいたけど)のは、漆黒に近い紫の目に、少し伸びた薄紫の髪を後で軽く縛っている。
 魔導士のアレス。フルネームはアレス・ナイザー。やたら馬鹿でかくって、無口で無表情で、何考えてんだかわかんないけど、
大方は食い物の事しか考えてない。そんな奴である。まぁ、食い物さえ与えてれば害は無いので、リンと比べれば可愛いもんである。

そおおおぉおおぉおしてっお待たせいたしましたぁっ。
 わたくし、キラ・セビリア。
 小柄だけどナイス・バディ!

「? こないだ腹出てきたって言ってなかったか?」

「黙れアレスううぅぅぅぅうっ!」

ボグゥッ! (アレス・ナイザー右ストレートによりダウン)

えー、コホン。盗賊ギルドでは結構名の知れてる、凄腕の持ち主だったり。顔は、うっうーん、控えめに言えば、四捨五入して超プリティ!
の部類に入るかなぁ? 目の色はルビーの様な赤。髪の色も情熱的な赤。ちょっとつり上った目が猫みたいで、小悪魔ってカンジぃ?
この美貌を妬んだ実の母によって(想像)、物心ついた時には孤児院に居たのね。ま、アレスとはその時からの仲なんだけど。

 とりあえず、世の中金でしょう!
って事で盗賊
ギルドに入るために、まぁそれなりに勉強して、そりゃあ優秀な成績で立派な盗賊になりましたとさ。
 アレスはくっつき虫みたいなカンジで一緒に孤児院出てきて、魔導士の素質があったらしいので魔導士になった。

あたし達の狙いは、主に遺跡とかダンジョンのお宝狙い。まぁ、俗に言うトレジャー・ハンターって奴かな?
 同族と居合わせた時はもう、燃える燃える。
 あの手この手でトラップ
かけて、それに相手がはまってくれた時のあの快感! ぜひ、皆様もやってみる事をオススメます(にやり)。

まぁ、たるい時とかは知り合いの『仕事屋』のトコ行って、割のいいバイトとか紹介してもらってる。
 その中にホンモノのドロボーが入ってたり、傭兵みたいに『ナントカの退治』とかがあったりするんだけど…。
 戦闘用のパーティーじゃないから、そこそこのレベルなんだけれどね。ま、でも世の中、大抵の事は気合と根性で乗り越えられるのだ。
 つか、仕事選んでたら生活できないんだよね。

んで、前置き長かったけど、今回は所持金が底ついたんで、火山帯にある洞窟くんだりまで来て、お宝発掘なんかしてたという次第なのだ。
 ここってさぁ、火山帯だけあってもぉんのすごっく! 臭い! だから競争率も低かった、ちゅーコトで…。ゲホ。臭ぇ…。


 「さて、読者諸君に紹介も終った事だし、帰ろっか」

 「飯」

 さっさと洞窟から脱出しようと歩き始めたあたしの後ろで、アレスがボソッと呟く。
 まぁったく、何でこうも食べ物の事しか考えてないのかねぇ…。

 つか、実はあたし達そろいもそろって、口元に三角巾してたりする。
 …多分、傍目から見ればすっげぇ笑えるんだろぉなぁ…。トイレ掃除の人に見えなくもない。ちくそー。
 しっかし、マジ臭いんだって! ここ! 何でこんなに臭いんだよ!


 口に出せば臭い空気を吸い込む事になるので、心の中で思いっきり誰にともなく毒舌つきながら、あたし達は素早く! 迅速に! 洞窟を後にした。
 うへぇ…この臭い、染み付かなきゃいいけど…。付いたらサイアクだなぁ。皆逃げてくじゃん。ぐへ。

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