「仕事屋クロの夫婦」

やや早足で大通りを歩き、何区画か歩くとクロの仕事屋と奥さんのフレイさんのパン屋が合体してる店が見えた。
 店構えは結構大きい。繁盛してるのだ。生意気に。や、これは内緒ね。お世話になってるからさ、一応。

「ちーす」

ドアを開けて大声で挨拶をする。店の外からでもフレイさんのパンのいい匂いがしてたけど、
店内に入ると美味しい匂いは更に強くなる。うっう〜ん、いい匂い。横でアレスがヨダレを拭っている。犬かお前は。

「おぉ! 来たか! あそこ臭かっただろー。よく行ったなぁ。
 や、俺半分冗談だったんだけどまさか行くとは……。ちゃんと臭いは落としてきただろーなぁ」


 馬鹿でかい声で無責任に、クロが片手を軽く上げて挨拶する。

「ほーんと、あんっなに臭いとは思いもしなかったわ。てゆーコトで、慰謝料分差し引くからね」
 「うげっ!? マヂか!? やめれって! どんな仕事でもいいって言ったのはお前だろ!? そんなの事前契約に無かったぞ!」

あたふたと焦るクロ。こいつは単純明解なので面白い。
 「バーカ。冗談に決まってるでしょ。あたしは約束は守る人間なんだから」
 あたしの言葉が冗談だと知り、あからさまにホッとした様子でクロは胸を撫で下ろし、今度は反撃に出る。

「だ・れ・が! 約束は守る、だ。お前、評判悪いぞ? 遺跡で居合わせた別のパーティーが、
 正攻法でお宝取り合おうって約束したのに、お前は悪質なトラップ
を鬼の様に仕掛けてたって…」

……………………ドコの遺跡の話だろう。身に覚えがあり過ぎて特定出来ない。
 「あったりまえでしょ!? ビジネスの約束ならともかく、お宝巡っての争いに甘っちょろい事なんか言ってられないの! 
 いい?現実は厳しいの! そこんトコ分かってないなんて、駆け出しだったんじゃないの?」

「…………………その道三十年のベテラン冒険者だったが……」

ぐ!?

「パ、パーティーに盗賊入れてなかったのが悪いんでしょ!? 盗賊がいればトラップなんて一目瞭然でわかるんだから」

「…………………盗賊は強力な攻撃魔法のトラップ食らって、失明しかけたらしいぞ」

げ!?
 そ、そーいえば魔法の入ったトラップ宝箱ってやってみたくて、あたしが中身貰った後の宝箱に、
アレスに『
闇の刃』の魔法入れてもらった事があるよーな…。

「パ、パーティーにもう一人盗賊入れとけば良かったのよ! それっくらい常識! 常識!」
 「…………………よく回る口だなぁ…」

降参のポーズをとって、クロは深々と溜め息を吐いて頭を左右に振る。
 「う、うるさいわね! 折角このキラ様が成功報酬を利子付きで持ってきてやったんだから、それ相応の歓迎しなさいよ!」

「あらぁ、キラさん、来てらしたんですねぇ」

いきなりポヨ〜ンとした声がした。パン屋のカウンターの奥から、エプロンに三角巾を頭に付けたフレイさんが出てきた。
 ゆるいウェーブのかかった深い青色のロングヘアに、優しそうな黄色の目。相変わらず年齢不詳な人である。

「あぁっフレイさん! 僕は貴女の笑顔を一目見るために、あの火山帯から戻って来たんです!」

リンがさっそくフレイさんを口説き始める。すかさず、愛妻家クロの拳がうなる! が、リンも慣れたもんで、
それをひょいひょいとかわしながら、フレイさんに耳がかゆくなる様なセリフを発し続ける。
 毎回こうなんだよね。進歩しない馬鹿が二人。

「アレスさん、こっちにいらっしゃいな」

もう、視線はパンに釘付けのアレスに、フレイさんが声を掛ける。フレイさんにとっては、
常に秋波を出しているリンなんかより、自分の作ったパンを美味しく食べてくれるアレスの方がお気に入りらしい。
 あたし達が来る事を前もって分かっている時は、商品外のパンを大量に作ってアレスに与えてくれる。
 お陰でこっちの食費も浮く。ありがたや。

「ほらっ! クロ! いつまでもリンと遊んでないで!」

手近にあった丸めてある地図でクロを叩く。紙なのであんまり威力はない。残念。

「お、おう」

リンを睨みながら、クロはのそのそと仕事屋のカウンターに戻ってきた。まったくもって、狂暴な愛妻家である。

クロはマリドン大陸の西(左)隣にあるゾルゲフネ大陸出身。
 そこの南の方に住んでるカヤ族という人なんだけど、カヤ族の伝統的な生活を嫌って戦士としての生活を始めて、
しばらく冒険者としてあちこちの大陸を歩き回ってたらしいんだけど、ダルディアに来た時にフレイさんに一目惚れして、
お嬢様であるフレイさんを半ば強奪する様にして結婚。うーん、よくやるもんだ。
 ま、今ではフレイさんの親と和解しつつあるらしいんだけど。

で、そのカヤ族てのがちょっと珍しい外見をしてて、黒い肌に白っぽい髪をしてる。
 目は青。カヤ族の伝承とかによれば、先祖はダーク・エルフだったとかなんとか…。
 ダーク・エルフは基本的に黄色系の目の色なんだけど、まぁそれはそれで混血とか何とかで、正当な姿は失ってしまったんだって。
 シーヴァ教ではなく自然界の精霊を崇めてて、必要最低限以外の土地開発とかはしないで、自然の中で生きているそう。

 初めはその外見でかなりビビられてたけど(身長もかなりあるので、近くにいると威圧感があったりする)、
冒険者生活の中で色んなトコの言葉話せるし、人柄もいいので、近所の人とはかなり仲良くやってるらしい。
 フレイさんも凄く良い人だしね。

 前にこいつの事をあたし達はクロって呼んでるって事を紹介したけど、あたし達がそう呼んでるのは肌が黒いからじゃない。
 本名がクロディーヌだからクロ。まったく、顔に似合わない可愛らしい名前である。

「ほい、利子付きで十三万シェル」

 ショルダーバッグの中から、全て百シェル硬貨の十三万シェルを払う。くそ、重かったぜ。

「なっ!? 何だよこれ! こんなっジャラジャラ……し、紙幣ってもんがあるだろ!?」

 悲鳴に近い声でクロが抗議する。

「まぁ、何て言うの? ちょっとしたお茶目? 慰謝料引かれなかった分、感謝しなさいよぉ。
 ちゃんと支払って、利子までつけてるんだから」


 あたしの言葉にクロはいじけた目でこっちを見、無言で十三万シェルを引き取った。

「…キラも暇ですよねぇ…。嫌がらせのために苦労して…」

 さりげにあたしの肩に手をまわしつつ、隣にいたリンが言う。あたしは無言で裏拳を放つ。

ヒュッ………ドガスッ

ほーむらん。

「そぉそぉ、あんたのくれたこのナックル。結構いいモノだわ、サンキュ」
 やっぱり右手をさすさすしつつ、あたしはクロにお礼を言う。
 「だろ? 俺の知り合いの格闘家がくれたんだよ。でも俺使わないからさぁ、
やっぱ使ってくれる人が持ってた方がいいかな? って思って。そいつの承諾ももらった事だし」

物は使って初めて価値が出る。(マンディー著書『サクセス・ライフ』より)
 名言である。マンディーさん万歳。

「で、次の仕事は考えてんのか? 俺の取り分でこんだけだったら、結構儲けたんだろ? しばらく遊んで暮らすか?」
 クロが次の仕事を持ちかける。さりげに商売人だ。

「や、あのさー…それなんだけど。あたし、当分はお宝ゲッチューはひかえとくわ。ちょっと目的出来ちゃってさ」

そう言って、チラっとアレスを見る。
 勿論あたしに気付く筈が無い。今アレスの全神経は、目の前のパンの山に注がれている。

「え!? キラ、熱でもあるんですか!? あんなにお宝・金大好きなキラが…」
 リンがマジ顔をして起き上がり(今までノビてた)、あたしの両肩を掴む。あ、左ほっぺにナックルの跡ついてやんの。

「だから! それについてあんたに相談したかったのに! あんたは夕べどっかに行ってたんでしょうが!」

くりっと横を向き、誰にともなくニコッと微笑むリン。この野郎。それでかわしたつもりか?

「や、でも本当に…。目的って何だ? 俺様もちょっとびっくり」
 うーん、クロとフレイさんには言っておくか。色々お世話になってるし、もしかしたら何か情報くれるかもしれない。

「実はさぁ、かなり方向を変えて、ヴァンパイアなんて探そうと思ってたり…」

『げぇっ!?』

見事にクロとリンの声がハモった。

二人共怪物でも見た様な顔であたしの事を見てる。む、何かこの視線ムカつく。

「だっ…分かってんのか!? ヴァンパイアだぞ!? アンデッドの支配者だぞ!? 
 生半可な事じゃ死なないんだぞ!? 強いんだぞ!? だあああああああぁぁぁぁぁ! 
 どっからそんな悪い事憶えて来たの! この子は!」

パニクってる。

「いやぁ、そりゃあたしだってホントは関わりたくないんだけどさ、
 まぁ、どうやらあたしとアレスの生まれ故郷が
ヴァンパイアに襲われて、あたし達二人以外は全滅したらしい…って事を、
 実は昨日知ったんだけどね。で、仇なんて討ちたいかな〜? なんて思ったりぃ」

あ、リンがかなり驚いた顔してる。
 そりゃそうだろう。あたしだって昨日まで知らなかったんだから。

「……………………や……そうは言っても……だぞ………?」

どうやら先程のパニック状態からは抜け出したみたいで、クロは難しい顔をして頭を抱え込む。
 最近お気に入りらしい、ツンツン立てた髪をぐしゃぐしゃとかき回してる。これは考え込んだりした時や、
ムシャクシャしてる時のクロのクセ。あーあ、せっかくセットしてあったのに。

「で、リンに話ってのは、これからは当分ヴァンパイア探して旅する訳で、勿論かぁなぁり危険が伴う訳ね。
 んで、一緒に来るかどうかはあんたの意志に任せるわ、って話。
 あたし達とは違って、あんたには家族がいるでしょ? ま、今は勘当されてるけど」

真剣な顔であたしはリンに言う。

今までパーティーを組んで来たのは、お宝ゲッチューの冒険として。
 これからは、仇討ちなんていう、あたし達二人の私的な目的だから、そんなのにリンを巻き込んで危険な目に遭わせる訳にはいかない。
 リンはあたしにとって大切な存在だから。アレスにとっても。

「ふざけんな」

あ? キレてる?

今まで見た事の無い真剣なカオで、リンがあたしを見てる。こいつはキレると口調がマトモになるんだなぁ。
 「何キレてんのよ。あんたの事を思って言ってるんでしょ? 大丈夫、仲間はずれなんかにしないから。
 目的果たしたら、またあんたと組んで元の生活に戻るつもりだし」

クロが溜め息を吐く。え?何よ。

「二人の仇討ちだから俺は関係ないのか? 仲間はずれとかじゃないだろ? 
 俺の事、家族だって言ってくれたのは嘘だったのかよ!? 俺がキラとアレスの家族なら、
 俺だって仇討ちに参加する権利あるだろ!?」

…………………やば、ちょっと感動。
 でも、あたしはこんな所で泣かない。

「死ぬかもしれないんだよ? あたしはあんたに死んで欲しくないから、あんたの意志に任せるって言ってるだけでしょ?」

思わずケンカ腰。それに、リンも青い目を真剣に光らせて言う。
 「じゃあ、アレスなら一緒に死んでもいいのかよ!」

論点ずれてる。この馬鹿。

「………………キラは自由意志だって言ってて、リンが一緒に来たがってるなら、今まで通りに一緒にいればいいんじゃないのか?」

口の中にパンを詰めたまま、もそもそとアレスが言った。あたし達の声は、パン屋の方まで聞こえてたらしい。
 パンを買いに来たらしい人が「何だ何だ?」ってな具合でこっちを見てる。

「そうですよね、さっすがアレス! 言う事ちっが〜う」

リンがそれを聞きつけて、いち早く即答する。あーっ! もう! 知らないからねぇっ! 
 あたしは忠告したよ!?  したからねっ!

そんなこんなの内に、すっかり昼休みの時間になり、
表のドアに『準備中』の札を下げてきたフレイさんが、あたし達の仲間に入る。

 
「……でもキラさん、具体的にはどうされるおつもりなんですか? 
 ヴァンパイア
は倒す方法もさる事ながら、その存在を探し出す事も難しいんですよ?」

うーん、さすがフレイさん。まともな意見だ。

「そこはそれ、ヴァンパイア・ハンターなんかに接触して、色々教えてもらおうかと……」

ヴァンパイア・ハンターは、色々勉強したり下積み期間が長い割に、大した能力を得る事が出来ないのし、
危険が大きいので一番ポピュラーな職業である戦士
なんかと比べると、あんまり人数はいない。
 それでも、ちゃんと
ヴァンパイア・ハンターギルドは存在するしあたしも何回か彼らを見かけた事はあるので、
ちゃんと実存するのは実証済みだ。

冒険者ギルドに無料で置いてある冒険者新聞によれば、今時、ヴァンパイアっていうのも今までのイメージとは違って、
その暮しなんかも大きく変わってるそうだ。

 青白い肌をして、真赤な眼を持ち、異様に発達した牙を持つ……てのは、良くあるイメージだけど、何だかそれは違うらしい。
 詳しい事はよくわかんないんだけど。

 ちなみに昔ながらのイメージのヴァンパイアも勿論いるらしいけど、
そんなのはあたし達の手には負えない物凄く高位の
ヴァンパイアだ。
 やっぱし、世の中強い奴は目立っても生きていけるのである。

「…まぁ、それなら可能かもしれねぇけど…」

無精ヒゲの生えた顎をポリポリかきながら、クロがあんまり乗り気じゃなく言う。

「でしょ? だから、ここにヴァンパイア・ハンター出入りしてない?
 知り合いの可愛い女の子が困ってるから…って。ちょっと言ってくれて、
 『星花亭』の場所とか教えてくれれば助かるんだけど」

仕事屋のカウンターに座ったままのあたしの所に、フレイさんがエキドナの顔の形のパンを持って来てくれた! 
 っきゃあ! 可愛い! 食べるの勿体な〜い。ふんふん、中身はクリーム・ジャムの二種類かぁ。
 こりゃお子様に大人気ですな。もぐもぐ(勿体ないと言いつつ早速食べる)。

はぅ……。フレイさん大好き……。

「んんんんんんんんんんんんん…ヴァンパイア・ハンターギルドに知り合いはいるんだが……」

おぉ、ナイス。でかしたクロ。

「なぁにさっきから渋ってんの! うじうじうじうじ、男らしくないねぇ! もちっとすぱっと出来ないの!?」
 便秘してるみたいにいつまでもうんうん言ってうなってるクロに、
ちょっとイラついたあたしは言葉で揺さぶりを掛けてみる。

「だがなぁ……」

なおも渋るクロ。案外、こいつは外見に似合わず気が小さい。
 しばらく黙っていたが、クロはボソッと呟いた。

「…心配なんだよ。相手はヴァンパイアだろ? 仇討ちなんて言って手出して怒らせて、
 無事に帰ってくる保証は何処にもないじゃないか」

心配してくれてるらしい。

「………………有り難う、クロ。でもさ、あたしが忘れちゃった両親に対して、子供として出来る事って、
 それくらいしか無いんだよね。親から見ればあたしが元気に生きてりゃそれで嬉しい、
 てのはあるかもしれないけど、そんなんだったらあたしの気が済まないワケ。
 …あたしは恐怖のあまりに家族の事や故郷の事をすっかり忘れた。全ての記憶と恐怖と悲しみを、
 アレス一人になすり付けた。子供だから仕方なかったのかもしれない、でも、今のあたしにはプライドってもんがあるし、
 アレスに協力して仇討ちをする事も出来る。…………………だから、それが今のあたしに出来る全てなんだ」

久し振りにマジモードなあたし。

アレスはまたパン食べモードに切り変わってるけど(ホント緊張感ないよなぁ)、
他の三人は真剣にあたしの話を聞いてくれている。

「……………………あなた、キラさんの一代決心ですもの。応援してさしあげましょ? 
 これ以上あなたが何を言っても、キラさんの決心は変わりませんわ」

フレイさんが、エプロンとおそろいの赤いギンガムチェックの三角巾を外して、そう言ってくれた。
 外した三角巾を丁寧にたたみ、若草色のワンピースのポケットに仕舞う。

「…分かった、今週中には話つけておいてやるよ」

クロは大きな溜め息と共に、そう言ってくれた。さすがに愛妻の一言は効くなぁ。

「やったぁ! クロ、サンキュ〜」

よしよし、これで次に進む事が出来るぞぉ。

「所で、アレスは聖属性の魔法を行使出来んのか? 使えなかったら、まず先はねぇぞ?」

う。盲点だった。

恐る恐るアレスを見ると、パンをもぐもぐしながらアレスは答える。

ふはえふぁい(使えない)」

なぁあああああぁぁぁぁあぬうううううぅぅぅぅぅぅっ!?

「アレス、魔導士ギルドの登録カード見してみ」
 げんなりした顔で、クロはそう言う。アレスは口をもぐもぐさせながら、
いつも首から下げて服の中に隠して(?)いるパスケースから、魔導士ギルドの登録カードを出す。
 これは冒険者なら誰もが持ってる物で、あたしは盗賊
ギルドの登録カードを持ってるし、
リンは戦士
ギルドの登録カードを持ってる。これで、自分の身分を証明できるのだ。

「ふんふん」
 クロはアレスの登録カードを見ながら、何だかメッチャ凄い顔をした。

「こいつさぁ、属性に片寄りありすぎ。火と聖属性の魔法が全然ダメ。
 逆に氷や闇属性とか雷の能力はすっげぇ高いけど。これじゃあヴァンパイア
相手は難しいぞ? すっっっごく」

ガーン。知らなかった。

アレスの能力に関してなんて、一回も気にした事が無かった。魔力そのものは凄い高いし、
暇さえあれば色んな魔法書呼んでるから、次々と新しい術使ったりしてて、すっかり安心してた。
 ……………けど、アレスが攻撃魔法の最も初歩である
ファイアー・ボールを使ったのを、そういえば見た事がない。
 他の火属性の魔法も
然り。

うがあああぁあぁぁああぁああぁあぁあぁあっ

ましてや聖属性なんて…。回復とか補助の魔法も、じゃんじゃん使ってるからてっきり大丈夫なんだと思ってた。
 でも、今思えばあれは水属性だったり地属性の魔法なんだよね。

ぎゃあああああぁあぁぁぁあぁあぁっ! いきなり大ピンチ!

闇属性なんての使ったら、尚更パワーアップしちゃうじゃん! 
 アンデッド
に唯一有効なのは、聖属性の魔法しかないっていうのに…。あふうぅううぅ…。

「まぁ、こうなったら俺の知り合いのヴァンパイア・ハンターにどうしたらいいか、訊いてみるしかねぇだろ。
 今から習得しようにも、属性相性がゼロだったらどーにもなんねぇもんな」

ゼロ!?

「な…ナニそれ、ゼロって…。どうあがいても習得する事は出来ないって事?」
 恐る恐る訊いてみると、無情にもフレイさんが即答してくれた。

「そうなりますねぇ。しかも、そうそうある事ではないと思いますが、聖属性や火属性の攻撃魔法を食らいますと、
 かなりのダメージになりますわ。耐性もゼロという事になりますから。
 火属性なら消し炭、聖属性なら…どうなるんでしょうねぇ、浄化されちゃうんでしょうか…?」

浄化…って、アレスはアンデッドかぁあぁあぁっ!

フレイさんもフレイさんで、恐ろしい事を顔色一つ変えないでポヨ〜ンとした声のまんま言ってくれるから、
こっちの心臓に悪い。ちなみに、言い忘れたけどフレイさんは元・魔導士の現在パン屋。
 両親共々、かなり高名な魔導士らしい。

「まぁ、待ってろ。今週以内には連絡すっから」

ガックリと肩を落とすあたしに向って、クロはそう言うとカウンターの奥に引っ込んで行った。
 カウンターの向うから声だけが聞こえる。

「おぉい、これから俺様特製のパスタ作るけど、食べてくだろ?」
 「勿論」

どんなに落ち込んでいても、食べるものは食べる。それが正しい姿である。
 ちなみにクロもまた結構料理が上手い。つか、フレイさんはパン以外作れないんだけどね。
 まぁ、お店開いて繁盛させる位の腕だから、それはそれでいいと思う。
 お互いの短所を補い合ってこそ、夫婦のあるべき姿。

 まぁ今時、男も料理くらい出来ないとモテないわな。筋肉馬鹿で男である事をいばりちらして、
女は黙って後ろに従うものだと思い込んでる時代錯誤な馬鹿者は、今の御時世、能力ある女に次々と蹴落とされていく。

 まぁ、自分じゃ何も考えなくていいから楽で、男に従順に生きてる女がいるのも確かだけどね。
 そういう人はそういう人でいいと思う。それはその人の生き方だから。

ただ、あたしは自分至上主義だから他人に従うのもヤだし、誰かに尽くすってタイプでもない。
 自分に合わないと思う事はしないのだ。大切な人の忠告とかはちゃんと聞くけどね。

それからあたし達は、クロの作ったにんにくたっぷり(何だか当てつけっぽい)のパスタを食べて、
にんにく臭くなってから退散したのであった。ちなみに、クロは量の加減というものを知らない。
 今回のにんにくパスタは、バケツ一杯分は優にあった。げふ。

  

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