「夜の危ない散歩」

 あたしが出会った人間の中でもトップクラスに入る変人、セネカ・ファナシュを追い払った後、あたし達は気を取り直して再び進行する事にした。朝食の後片付けと、二つのテントをしまうのは、勿論リンにやらせる。こいつの節操のない腰も悪い。
 リンがテントをたたんでるのを監視しつつ、すっかり出発秒読み開始な状態であたしはエキドナの上からレシテルに訊ねる。

「ねぇ、昨日の夜あたしに何て言ってたの?」

人が寝ようとした所を邪魔したんだから、あれ位の教育的指導は当然だと自分を正当化して、あたしは何気なくレシテルに訊くと、レシテルは意外にもあっさりと「何でもねぇ」とだけ言った。良かったぁ、怒ってないみたい。またヘソ曲げられた日には、あたしも逆ギレするしかないもんね。

 たたんだテントを袋に入れようとしてるリンの尻を、エキドナの上から蹴り飛ばして、あたしは地図を広げて今後の進路を確認する。
 えぇと、ダルディアからティシュアの国境を越えるまでが三日かかったんだから、この分だと…。コンパス、コンパス。よし、あった。で、今までのペースで進むとすると、二日後には、ティシュア王国の北にある、目的地ブルゲネス湿地帯のあるドゥーマ王国に入れる。
 ドゥーマ王国に入ってから北上して、約二日でマリドン大陸最大の河であるタフト河に着く。そこを何とか渡って、一、二…四日後にはブルゲネス湿地帯に入ってる計算だ。
 うぅん、後一週間もすれば、あたし達は敵の本拠地に近付いてる事になる。そう考えると、少し武者震いがした。変態に出会ったからと言って、気を緩めてる場合じゃない。相手はヴァンパイアなんだから。

「アレス、後一週間くらいだよ。このペースで行けば」

あたしは地図を見せてアレスに言う。アレスはやっぱり無表情で頷くと、必死になって口元を隠してる。んん?

「あぁっ! こら! 食事と休憩の時以外は、モノ食べたら駄目でしょ!? 何回言ったらわかるの! ホラ! 口開けなさいっ口!」

まったく…油断もスキもあったもんじゃない。いくらアレスには食べ物を与えておかないといけないとはいえ、食べる物はちゃんと決まった時に皆と一緒にとるべきだ。小さい時から言ってんのに、アレスはあたしの目を盗んではもぐもぐしながら何かやったりしてる。それで喉つまらせた日には、手の打ち様がない。
 アレスの口をこじ開けると、口の中にはむちゃむちゃに噛まれた干し肉があった。あたしは黙ってアレスの口を閉じさせ、それから思いっ切り背中を叩く!

ごっくん。

「あっ」

干し肉を大切に噛んでたのに、飲み込んじゃったもんだからアレスが情けない声を出す。あんた、それでも二十二か!

「…それ位、食わせてやれよ…」

アレスに同情してそう言ったレシテルに、あたしは敢然と首を振る。

「中途半端な教育はいけないの!」

「…こいつは三才児か」

レシテルの突っ込みを無視してリンを見ると、丁度全てやり終えて青エキドナに乗る所だ。あたしは地図をしまって出発する。
 後一週間! 待ってれ! ヴァンパイア!

それから二日、大した問題も外敵もなく、あたし達は順調にティシュア王国を抜けてドゥーマ王国領に入った。国境を越える時は、大体前回と同じやり取りがされて何の問題もなくパス出来た。ただ、またもやセネカ・ファナシュが出て来ないか心配で挙動不審だったために、あたしだけが普通の手順を踏んでチェックされる事になった。くそぅっ! あの女のせいだ!
 多分、セネカ・ファナシュとの出会いは、大きなトラウマになるに違いない。あたしは国境を通り抜ける度に、あいつの影に怯えて不審者扱いされなきゃなんないのおおぉぉっ!
 ちょっと被害妄想入ってるあたしだった。

そして更に二日、あたし達は前方にタフト河の雄大な姿を目の前にして、キャンプを張っていた。やっぱりレシテルの料理は美味しい。三日坊主にならずに、ちゃんと律義に毎日の昼と夜に作ってくれるのも偉い。あたしは、多分二日ももたないだろうと踏んでたんだけど、なかなかどうしてレシテルは約束を守る奴だった。
 タフト河は、ドゥーマ王国を横に三等分して一番下の線に当たる部分にある。ドゥーマ王国に入ってから二日であたし達はそこにいる。ティシュア王国を抜けるのも、同じく二日かかったんだけど、ティシュア王国の場合は国境沿いに最短距離で移動したので二日で抜ける事が出来たのだ。

「…………………ねーぇ? アレス」

あたしは焚火の周りに刺した串を見ながらアレスに話し掛ける。その日は早めにキャンプを張って、肉を調達するためにリンとレシテルに狩りをしてもらった。レシテルは、「何でこの俺様が狩りなんて…」とか、ブツブツ言ってたけど、上手にオトリをやってくれてリンが絶妙なタイミングで獲物を仕留め、あたし達は今、美味しい肉を串に刺して焼いているのだった。適当な大きさに切った肉を、塩・こしょうで味付けをし、肉と肉の間に野菜を刺して、焼ける具合を黙って見守(そだて)る。一見暗いけど、これがまたなかなか楽しかったりする。つか、見張ってないと狙ってる串を誰かに取られる場合があんのよね。
 メインはそれで、他にレシテルがシチューとつまみ程度の物を作ってくれた。
 シチューばっかり食べてる様に思われそうだけど(実際その通りだったりする)、シチューってのは、色々材料をぶち込むだけで色んな物を食べられるし、汚す食器もカップとスプーンだけで済むから、何かと都合がいいのだ。シチューをなめちゃいかん。

「はに? んぐぐ」

アレスがあつあつの肉を噛み切りながら、あたしに返事をする。

「それで何個目?」

「…………………はぶん、じゅっ…じゅるっ…十二個目」

噛み付いたまんま答えようとし、肉の熱さのあまりヨダレを垂らして(汚いなぁ)、アレスは口を離してから答えた。大きな串に刺さった肉を、串十二本分…考えただけで具合悪くなる話だけど、あたしが今問題にしてるのはそんな事じゃない。

「ちょっと! あんたの分は十個でしょ!? あたしもリンも食べてるから…、レシテル全然食べてないじゃないのぉっ! ただでさえ、こいつ貧弱なんだからもー少し栄養つけてやんないと!」

串は二十本ある。あたしの予定では、アレスが十本、リンが四本に、あたしとレシテルがそれぞれ三本ずつ。なのにアレスの奴、十二本も食いやがった!リンはもう自分の分は食べちゃってるし、あたしは自分の分の最後の一本を火に当てて育ててる所だ。他に一本串が刺さっていて、それが果たして誰の分かをあたしはさっきから考えていたのだ。

「アホ! 今食ってる肉でその串食べんのやめて! それの残りとその一本はちゃんとレシテル食べなさい!」

あたしは手近にあった鍋のフタをアレスに投げつけ(コイーン!といい音がしたりする)、セリフの後半は、シチューを食べてるレシテルに言った。

「要らねぇ」

レシテルは口に入ってるシチューを飲み込んでから、ボソッと言う。

「さっきも言ったでしょ!? あんたこんなに細いんだから、少しは肉食べて太りなさい! そんなんじゃ、いくら強くてもすぐにスタミナ切れするよ!?」

そう、いくら攻撃力が高くて魔法もバンバン使えたとしても、それの元となるのは体力なのだ。エネルギー切れになったら、どんなに強い武器を持っていてもそれを振るう事すら出来なくなる。
 最悪な場合、逃げる体力すら気が付けば無くなってるっていう事も考え得る。逃げる時になって、「俺はもう駄目だ! 俺の事はいいから先に行け!」とか、よくあるけど、あたしはあんなのは絶対に認めない。殴って気絶させて引きずってでも、一緒に逃げる。それで敵に追いつかれて皆で全滅するなら、あたしはそれで本望だ。仲間を置いて逃げて自分だけ生き残っても、あたしは嬉しくないし、きっと「彼がくれた命だから大切に…」なんて事も思えないだろう。
 そんな事にならないためにも、体力のある内にさっさと逃げる! これがあたしのポリシーである。うむ。奥が深い。

「俺、肉食えねぇんだよ」

「そっかぁ、食べられないなら仕方ないねぇ…って好き嫌いがこのあたしに通用するとでも思ったか!」

見事な一人二役を一瞬演じて、あたしはすかさずレシテルに突っ込む。

「何で俺が突っ込まれなきゃなんねーんだ」って言ってるレシテルを助ける様に、リンがあたしに言う。

「や、ホントにレシテル肉食べれないんですよ、キラ。無理に食べさせたら吐いちゃいますし」

「えぇ!?」

リンに改めて言われて(レシテルを疑ってた訳じゃない。ホント。信じて)、あたしは驚きの声を上げる。だって、今までゴハン食べてて………。

「…気付かなかったのかよ」

レシテルが、ちょっと恨みがましい声で言う。

なっ何さ! 気付かなかったわよ! 悪い!?

「………………うん、あんたがゴハン食べてるトコなんて、全然気にしなかった」

あたしは誤魔化すのを止めて、正直に答える事にした。正直過ぎたのか、レシテルはホントに怒った顔をして横を向いてしまう。あらら。難しい年頃だ。

「ふーん、通りでそんな貧弱な体してる訳だぁ…」

まぁ、仕方の無い事なので、レシテルに肉を勧めるのを止めてあたしはレシテルの体を見る。本当に、十歳過ぎたばっかりの女の子みたいな体つきだ。しつこいけど、これでトップクラスのヴァンパイア・ハンターだって言われても、素直に頷く事は出来ない。

「貧弱って言うな!」

あ、また怒らせちゃった。いーじゃん、ホントの事なんだから。ホントの事言われてキレるのってね、それ認めてる事になるんだよぉー。
 実際口に出すと、果てしない言い争いになるのが分かってるので、あたしは心の中でレシテルに言う。うん、無駄な言い争いは無くさないとね。あたしは偉い。

「あ、じゃあさ、魚は?」

「魚も食えねぇ」

「………………………じゃあ、豆でも食べてたら? 畑の肉って言われてる位だし」

「だから! こーやって自分のシチューに豆一杯入れて食ってるだろ!?」

あれ? そーだったの?
 ますますレシテルの表情は険悪になっていった。………だって、他人のシチューの中身なんて、誰だって気にしないってば。これだけはあたしの注意力のせいじゃない。

 うぅん、どーにもなんないなぁ。
 栄養不良のレシテルに、何とかして栄養つけてもらいたいっていう母心はあるんだけど、本人の体の関係で肉や魚が食べられないなら、どーにもなんないよなぁ。好き嫌い無し、食べる量はドラゴン並みのアレスの肉体構造を、分けてあげたい。

「じゃ、仕方ないね」

そう言って、いい具合に焼けた串に手を伸ばしたあたしに、レシテルは叩きつける様に怒鳴った。

「そんだけかよ!」

「…………………………」

あたしは困ってポリポリと顎をかき、ややしばらくしてから静かにレシテルに訊いた。

「…ねぇ、レシテル。じゃあ、あんたはあたしにどうして欲しいの? 何も詳しい事、要求してないのにそーやって怒っても、あたしはどーしてあげる事も出来ないんだけど」

あたしがいつもの調子で応戦すれば良かったのかもしれないけど、レシテルはあたしがマジモードでそう言ってるのを聞くと、バッと立ち上がってタフト河の方に駆け下りて行ってしまった。

「夜だから泳いだら駄目だよぉ〜っ!」

全力で駆けて行くレシテルの背中に、あたしはそう声を掛けて最後の串に取り掛かった。

「…………………キラってさ」

「はんが?」

あぐあぐと串を食べてるあたしに、リンが話し掛ける。咄嗟の事だったので思わずあたしは、アレスと同じくふがふがな状態で返事をしてしまった。おっとヨダレが垂れる。

「………キラってレシテルの事、全然気付いてないんですねぇ、俺感心しちゃいます。やっぱりキラは俺一筋なんですねぇっ!」

訳わからん事を言って、抱き付いてくるリンを足蹴にして追っ払うと、今度はアレスがあたしに言う。

「……………キラ、それ食べたら片付けは俺達やるから、レシテルの所に行ってあげて」

「何で?」

素朴な疑問をぶつけてみると、アレスは二、三秒目を閉じてから、素人には分からないけど、付き合いの深いあたしには分かる「どーにもなんねぇ」って顔でリンを見る。二人して何だか共謀し合ってて、なーんかヤなカンジぃ。

「前に言っただろ? ディーナの丘で。レシテル、キラには特別心を開いてるって。だから、もっとキラに気に掛けて欲しいんだよ」

あ、なーんだ、それかぁ。

「オッケ、分かった。これ食べたら構いに行ってやるから」

あたしは理由が分かると、安心してゆっくりと串を食べる。原因が分かれば問題はない。早食いは太るって言うしね。ゆっくり噛んで食べないと。そうそう、最低十五回は噛んでから飲み込んだ方がいいんだって。知ってた?
 んで、あたしはしっかりと栄養を摂ると、ついでに歯磨きをしてからレシテルの所に向かった。まったく、手のかかる奴である。まぁ、そこが可愛いんだけどね。

鼻歌を歌いながら河に向うあたしの後ろ姿を見送りつつ、リンがアレスにボソッと言っていた事は、あたしには聞こえなかった。

「…………………キラってさ、絶対恋愛出来ないタイプですよね」

えぇ! 聞こえなかったですとも!

「レーシーテールー」

あたしは間延びした声でレシテルを呼ぶ。レシテルは、川岸に座り込んでいた。大きな河を前にして、レシテルの姿はやけに小さく見える。さっきのアレスの言葉を思い出しつつ、あたしは何とかしてレシテルを元気づけないとな、なんて思ってたり。
 レシテルが飛び出して行ってしまった原因になるあたしの言葉は、あたしは自分でも正論だと思ってる。だって、想いなんてもんは、どれだけ想っていてもどーにもならない。どれだけ一緒に過ごしていても、言いたい事はハッキリ言わないと相手に伝わらない。だから、あたしはアレスとリンに対して「分かってくれる」っていう期待はしない。自分の思い過ごしだっていう事が無い様に、心配な時はちゃんと口に出して確認する。
 結局、大切な事なんかを直接相手に話す事なんかは照れ臭いけど、でもそれがお互いに分かり合うための最短距離だったりする。何事も、一番簡単な方法や答えっていうもんは、一番近い所にあったりするオチが多い。ほら、シンプル・イズ・ベストってゆーじゃん? …ちょっと違う? …かな? ん? まぁ、いいや。

あたしは大分離れた場所からレシテルに声を掛けたんだけど、レシテルは聞こえてる筈なのにシカトしてる。…まさか、こないだあげた耳栓してるってオチはないよね?

「レーシーテールー…来ぉーい来い来い来い来い来い来い……」

「俺は犬かぁっ!」

あ、怒った。

でも、陽動作戦成功。いつもながら、カンッペキな心理作戦! ふふっ。人は、あたしを心理分析プロフェッサー・キラと呼ぶのだ(何のこっちゃ)。

「泳ぎたいなら、明日の昼間ね。せっかくタフト河まで来たから、一日リゾートしてもいーんだよ?」

ちょっと気遣ってみる。そう、明日の昼間に河で水遊びなんかして、遊んでやってもいいなぁ。今の季節、水温は少し上がって来てるだろうし。全身つかるのは無理でも、脚だけなら何とかなりそうだ。何なら、あたしは岸辺で脚だけつかって、レシテルに泳がせるっていうのもいい。

「馬鹿野郎。そんなのんびりしてる暇あんのか?」

レシテルは、隣に座ったあたしを見る事もしないで、冷たく言う。ふんっやっぱり可愛くない。

「軽い冗談よ。あんたが泳ぎたがってそーだったから、気遣ってみただけ。あ、別に恩に着なくていいからね」

何とも押し付けがましい事を言うと、あたしはブーツを脱いで脚を河に浸してみる。ちょっと冷たい。夜で暗い事もあるけど、河の向こう岸は全然見えない。多分、昼になっても見えないと思う。べらぼーにでっかい河なのだ。

「……………………アホか」

ちっちゃい声でレシテルは突っ込み、ゆらゆらと揺れる黒い水面を見詰め続ける。

「ねぇ、レシテル。こないだの話の続き…ってゆーか、続編だけどさ。あんたはずっとヴァンパイア・ハンター続ける訳? 何となく今思ったんだけど」

「続きと続編は同じだろ、馬鹿たれ」

まず、そう突っ込んでからレシテルは質問について考える。しばらくして、ポツポツと応え始めた。

「………自分の未来についてなんて、正直考えた事ねぇ。多分、ずっとヴァンパイア・ハンターやってんじゃねー「暗いっ!」

レシテルの語尾を、あたしが遮った。や、人の話は基本的に最後まで聞く方だけど、その時ばかりはあたしは思わずレシテルのセリフに被せてしまった。だって、あんまりにも暗くて夢がないんだもん。

「あんたねー、それでもあたしより若いつもり? 全っ然夢とかロマンが感じられないっ! 男なら、もっとドドーン! としたでっかい夢でもみなさいよ」

「例えば?」

「自分のエキドナ牧場つくるとか」

「そりゃ、お前だけだろ」

即答したあたしに、レシテルは思わず八重歯を見せて笑った。うーん、笑顔は可愛い。エキドナ牧場については、かなり真剣なので笑う所じゃないんだけど…まぁ、いっか。今回に限り許してやろう。

「…あんたさぁ、笑ったら可愛いんだから、いっつも仏頂面してないでもっと笑いなさいよ。その方が絶対いいし、女の子もマトモなの寄って来るよ?」

どうやらレシテルのファンの女の子は、あんまりマトモにレシテルを想ってくれてない様なので、あたしはそう言ってみる。…ちょっと、今の言い方だと誤解を招くかな?

「…………………どんな女でも、お前よりはマトモだと思うケド」

ああっ! やっぱり! 誤解を与えてしまった! ま、いーや。訂正すんのも面倒臭いし。

して、沈黙。

うーん、レシテルを構ってあげよう作戦、失敗かなぁ…。

「戻ろ、アレスとリンもあんたの事心配してるし」

あたしが立ち上がって言うと、レシテルはあたしの手を掴んで拒絶する。

「………………もう少しここにいろ。もう少し経ったら戻ってやるから」

…まったく、素直じゃない寂しがりだなぁ。

あたしはレシテルの横に座り直し、そのまんま仰向けに寝転がってみる。おわー、凄ぇ星。これぞ、満天の星空って奴だなぁ。

「レシテル、あんたも寝てみな、星凄いから」

寝たまんま、あたしは隣のレシテルを突っついてそう言う。や、これは見た方がいいって。素直じゃないお子さんの情操教育に…。なんて。

「うるせぇな、星が出てるぐらい知ってる、馬鹿」

一週間も一緒にいるとこいつのこーいう態度にも慣れたもんで、あたしは軽くあしらう。

「まぁ、そんな事言わないで寝てみなさいよ。座ったまんまと寝て見るんじゃ、大分違うんだから」

何だか、お節介なおばさんみたいな事を言って、あたしは一度起き上がるとレシテルの肩をひっ掴んで寝かせる。

「うわっ…おまっ」

あたしがこーいう行動に出るのを予想しきれなかったのか、ちょろっと焦ったレシテルは咄嗟に受け身になって倒れる。そーんな緊張しなくてもいーのに。

「ほらぁ、全然違うでしょ? 凄いんだから」

あたしはレシテルを押さえつけたまま、空を見上げる。真っ黒な空に、ピカピカ光る星がそりゃあいっぱい散らばっていて、どれが何の星座なのか一瞬分かんなくなる位だ。

「男だったらねぇ、この星空手に入れてやるって位の意気込み見せなさいよ」

あたしは星空の凄さに、口元を少しほころばせながらレシテルに男が持つべき夢のスケールについて語る。

「…お前はそーいう男がいいのか?」

「んー、そーだね。夢って奴は大きければ大きい程いいと思うし、それを叶えてやろうって頑張ってる姿があたしは好き。夢の内容は別に何でも構わないけど」

「復讐でも?」

「上等じゃん」

「………………ふーん」

レシテルの心の中の大切な部分にかすった気がしたんだけど、その時は満天の星空に夢中になっていて、全然気付かなかった。後になって思えば、この時レシテルの『復讐』って言葉について、もう少し訊いておいた方が良かったのかもしれない。
 この時あたしは、レシテルがあんまりにもさらっと『復讐』なんて言葉を言ったもんだから、どこぞのお涙頂戴モノのドラマの事でも言ってんのかと思ったのだった。

「あ、やだ。あんた夜になってまでゴーグル頭に付けてんの? どーせ今日は使わないんだから、外しちゃいなよ。邪魔臭いでしょ?」

それまで気付かなかったんだけど、視線を空からレシテルに戻すと、丁度視線の先にレシテルのゴーグルが映った。で、あたしは指先にゴーグルのバンドを引っかけると、それを取っちまったのである。

「あ、馬鹿! 返せ!」

何故か急に焦って、レシテルはガバッと起きるとあたしの持っているゴーグルに手を伸ばす。うわっ! びっくりしたー。いーじゃん、ゴーグル位…。
 安堵の溜め息を吐いて(そんなに重要なもんなのかなぁ)、レシテルはゴーグルを定位置に収めると、いかにも言い分けみたいに付け足した。

「…これがねぇと、スティーラー乗る時に上手くバランス取れねぇんだよ」

「へーぇ? そんなもんなんだ」

レシテルの咄嗟の誤魔化しを、純粋なあたしはそのまま鵜呑みにして、異常なまでのレシテルの焦りの原因を知る事が出来なかった。

「今度さぁ、またスティーラーに乗せてね。あたし、あれ結構気に入っちゃった。や、勿論今度は長い説明無しに」

ブルゲネス湿地帯が目的地である事の説明を、長々と何時間も聞かされた事を思い出し、セリフの後半はやや焦って付け足す。また「庶民」とかゆって馬鹿にされるかと思ったけど、レシテルは意外なまでに優しく言ってくれた。

「何なら、今少しそこら散歩してくっか?」

「えっ!? マジ!?」

あたしはレシテルに向き直って歓声を上げる。やったぁ! 夜にスティーラーって乗ってみたかったんだよねぇ。

「まだあいつら二人は寝ないだろ?」

今日見張り役のレシテルが時間を気にして言ったので、あたしは二人の生活パターンを見越した上で答える。

「うん、大丈夫。あと二時間くらいは起きてるんじゃないかなぁ」

あたし達はスティーラーが置いてあるキャンプに向って歩きながら、そんな事を話していた。こーやって誤魔化されて、あたしはレシテルの大切な部分に触れる機会を失ってしまったのだった。

「リン、アレス。あたし、ちょっとレシテルのスティーラーに乗せてもらって来るから」

キャンプまで戻ったあたしは、火の側に座ってカードゲームをしてる二人に断った。よしっ。戻って来たら混ぜてもらお。

「へぇ? 良かったですね、行ってらっしゃい」

リンがそう言ってくれ、アレスも次の手を考えながら手を振る。あ、馬っ鹿だなぁアレスの奴。そのカード持ってるんなら、あそこに出せばいいのに…。とか思いつつ、あたしは絶対にアドバイスしてやんない。こーいうのは、高見の見物が面白かったりする。

「おら、行くぜ」

スティーラーに魔力を与えて空中に浮かしたレシテルが、少し高い所からあたしに手を伸ばしてそう言った。

「んじゃ、ちょっと行って来るねぇ。すぐ戻って来るから」

「や、ゆっくりして来て下さい。キラがゲームに入るとすぐ賭けになりますからね…俺、今ビンボなんですよ…」

リンが貧乏ったらしい事を言う。何おうっ! ゲームってゆーもんは賭けの要素が入るから、余計面白くなるんだろーが。や、でも未成年の皆さんは駄目ですよ?
 で、あたしはレシテルの手に掴まってスティーラーの上に引き上げてもらい、そのまま夜の空中散歩と洒落込んだのである。

「すっごーい!!」

スティーラーは静かに、でも凄いスピードで進み、次々と目に入る景色は形を留めずに後方に流れて行く。真っ黒な大地のあっちこっちに村や町の明りが見えて、凄く綺麗だったりする。ちなみに高度は結構高い。落ちたらまず、落下中に気失ってあんまし恐い思いをしないで即死出来るだろう、って高さ。
 以前に、エキドナの背中からレシテルがあたしをスティーラーの上にさらった時、レシテルが直前に口走っていた呪文は、スティーラーに加わる重量許容量を大きくする、増幅の呪文だそうだ。リンはスティーラーは基本的に一人乗りだって言うのを知っていて、それで失墜しないか心配してたらしいんだけど、レシテルの唱えた呪文を聞いていたアレスが、大丈夫だって事を教えて安心したんだそうだ。つか、あの時真っ先にあたしに言えや。
 ちなみにあたしは、レシテルがあんまりにも細い腕をしてるので、筋力アップの呪文かと思ってた。それをレシテルに言ったら、即殴られた。………だって、しょーがないじゃん。細いあんたが悪いんだから。

スティーラーはタフト河を越えて、どんどん北に向かってる。今後の道のりを確認がてら、レシテルは北上して帰ってくる散歩ルートを取った。

「ねぇ? 何だかこれって、こないだよりもスピードアップしてない?」

流れる景色の速さが、あんまりにも凄まじいのであたしはレシテルに訊いてみる。

「あぁ? 今頃気付いたのか? つくづく鈍感な女だな。こないだの倍以上はスピード出してるぜ?」

ムカッ。鈍感って言い方はないでしょーが。

「倍? 何でいっつもこん位出さないの?」

「馬っ鹿じゃねぇの? お前らの乗ってる鳥の速度に、わざわざこの俺様が合わせてやってるんだろーが。俺様が一人で行動するんだったら、ダルディアから三日で湿地帯に着いてる!」

心底呆れた顔をして言うレシテル。本当に呆れた顔をされると、こっちとしても何だか情けなくなって、馬鹿って言われた事に反論する気力も無くなってしまう。
 あ、前方にブルゲネス湿地帯が見えて来た。いつの間にか、上空からは白い線に見えていた街道は、途切れ途切れになった挙げ句消えていて、そこから向こうは月光に反射してぬらぬらと光る水場が、延々と続いていた。

「……………………」

少し経つと、スティーラーは完全に湿地帯の中に入っていた。かなり高い場所からだから分からないけど、足元に広がっている水場にはぎっしりとリザードマンが居て、あたし達が乗っているスティーラーを見上げている事だろう。うえぇっ! 気持ち悪ぃ!

エキドナが早歩きをしてる位の速度まで、大分スピードを落としたスティーラーは、尚も湿地帯を進む。リザードマンの水鉄砲の飛距離を思い出し、この高さなら大丈夫だよね? と自分に言い聞かせつつ、あたしはレシテルに言う。

「ねぇ、レシテル。戻ろう。あんまり進んだら危険だよ」

敵の本拠地を目の前にして、不安を隠せないあたしにレシテルは今まで見た事も無い真剣な顔で低く言う。

「……………大人しくしてろ。ちゃんと無事に戻してやるから。トカゲ(リザードマン)どもの水鉄砲はここまで届かない。俺は奴等の本拠地をこの目で確かめておきたいんだ」

ひえええええぇぇぇっ!? 無茶言わないでよ! 誰も確かめた事がないって場所に、何であんたが偵察して無事に戻れるって保証があんの!
 あたしがそのむねを小声でレシテルに告げると、レシテルは驚く程に静かで自信に溢れた声であたしに応えた。

「この俺を、他の偵察隊と一緒にするな。俺はレシテル・エディレだ。俺は口に出した事は必ず実行する。だから何も喋らないで手すりに掴まってろ」

いつもなら、自信過剰なセリフに思えたけど(自信過剰だけどさ)、この時ばかりは不安だったのと恐かったのとで、やけにレシテルが頼もしく思えたりして、レシテルの落ち着いた声を聞いてあたしは自分の冷静さを取り戻した。

「………………分かった。あんたの事信じるからね」

既にこの時点で、あたしはレシテルに背中を預けて戦ってもいい気持ちになっていた。まだ、実際に自分の目でレシテルを確かめた訳じゃないけど、場数を踏んだ人間の目っていうのは見ればすぐに分かる。今までそれが確認出来なかったのは、レシテルが真剣になる様な切羽詰まった状況に陥ってなかったから。

「任せれ」

あたしの声に、レシテルは前方を睨んだまま小さく応えた。それきり、あたし達は会話をする事を止め、さっきよりも速度を落としたスティーラーは静かに進んでいた。足元からは、微かにチャプチャプと水の音が聞こえて来る。リザードマンが足元にひしめいている事を思うと、あたしは小さく身を震わせた。散歩だけのつもりだったから、あたしは今丸腰だ。もしも、ここでリザードマンの水鉄砲が飛んで来てスティーラーが落ちたら…。

そこまで考えた時、あたしの肩をレシテルが思いの外強い力で握って来た。

「余計な心配はするな。恐かったら目つぶって俺の服でも掴んでろ。余裕があるなら、今の状況に慣れておけ」

レシテルに見透かされて、あたしは不安に思う気持ちを心の隅の方に蹴飛ばした。数日後には、一緒にヴァンパイア達と対峙してる筈の仲間だ。レシテルが大丈夫だって言って、信じろって言ったんだから、あたしはそれを信じないといけない。リンやアレスが大丈夫だって言った時も、あたしはどんなに危険な状況でもリンとアレスを信じる事が出来た。今はレシテルを信じる時だ。

ふと、あたしは何故か急にセネカ・ファナシュの事を思い出して、小さく笑ってしまった。レシテルがぎょっとしてあたしを見る。

「…何だよ、いきなり」

「や、ゴメン。急にセネカ・ファナシュの事思い出しちゃって…」

あたしがそう言うと、レシテルも口に出して笑わなかったものの、一瞬体を震わせた。こいつもあのおかしな女の事は、人生のビックリ大事件としてこれからずっと記憶するのだろう。

何だかセネカ・ファナシュの事を思い出したお陰で、あたしの体からは余計な緊張感が飛んで行き、代わりに遺跡の中をトラップに注意しながら進んでいる様な、半分ドキドキ半分ワクワクした感覚が、久し振りに蘇って来た。多分、もう逢う事はないけど、あたしは心の中でセネカ・ファナシュにお礼を言った。

あたしの緊張がほぐれたのを感じると、レシテルは音量を抑えた低い声で言う。

「湿地帯に着いたら、大食い魔導士の力を借りて四人でスティーラーに乗って、一気に敵の本拠地に突っ込む。昼間は足元に蜥蜴どもがびっしり居るのを見ながら進まないといけねぇ、しかも操縦する俺様の負担は大きい筈だから、これ位のスピードでしか進めねぇ。だから、さっき今の内に慣れておけと言ったんだ」

いつの間にか、こいつは先の事までしっかり考えてる。あたしは、最強クラスのヴァンパイア・ハンターであるレシテル・エディレの実力の片鱗を目にした気がした。そして、自分とは全くレベルが違う事も悟り、さんざんレシテルの実力を疑っていた自分を思って情けなく思う。

「でも、四人でこのスティーラーに乗るのはちょっと無理あるんじゃない? エキドナ…はやっぱ何処かに預けるんだよね?」

「当たり前だ。蜥蜴どものエサにしてぇのか? 湿地帯の手前に小さな村があるから、そこのエキドナ社員に預ける。そこからはスティーラーだ。地の精霊の力を借りれば、一時的にボディ部分を大きくする事も可能だ。まぁ、奴等と対面する前にちょっと魔力消費しちまうが、どうこう言ってらんねぇだろ。二人がかりでやれば何とかなる」

不思議なもんで、レシテルの生意気な口調もすっかり頼もしく思える。その時、レシテルの計画を聞きながら、あたしは足元の方からそれまでとは違う音を耳ざとく捉えた。

「レシテル…」

「大丈夫だって言ってんだろ」

その音が、リザードマンが水鉄砲を放つ前に水を吸い上げる音だという事を思い出し、あたしは一気に青ざめる。でもレシテルは冷静な態度のまま、あたしの頭をペシッと叩いた。つか、あたしはこの一撃で安心してしまったりした。

ズオオオオオオォォォォォォッ

何とも凄い音を立てて、リザードマンの水鉄砲の第一撃目があたし達の乗ったスティーラーに向けて放たれた! ぅわっきゃああああああぁぁっ! 暗くて見えないけど、もう辺りはリザードマン達の敵意のこもった音で充満していて、その一撃目が放たれたとほぼ同時に、他の奴らも一斉に水鉄砲を放って来た! ぎゃあああああああぁぁぁぁぁ! 怖いよぉっ!

大丈夫だとは分かっていても、咄嗟に身を固めたあたしは、苦し紛れにレシテルのコートを掴んだ。レシテルは、あたしのアクションにさして反応を見せずにスティーラーを進めて行く。
 レシテルが太鼓判押した通りに、リザードマン達の水鉄砲はスティーラーの底にかすりもしなかった。スティーラーは思っていた以上に上空を飛んでいて、リザードマン達の水鉄砲はちっとも問題じゃなかったのだ。はっはっは。ザマーミロ(現金)。

リザードマンの水鉄砲攻撃を受けながら、そのまましばらく進むとレシテルはゴーグルに手を当てて小さく呟く。何かの呪文らしかった。初めの「…我、乞い願う」の部分は聞こえたけど、そこから続きはあまりにも早口&小さな声だったので、聞き取る事は出来なかった。呪文の詠唱さえ聞けたら、大体は何の魔法かは見当付くのになぁ。
 と、夜中だとゆーのにゴーグルを掛けているレシテルは(まぁ、スティーラーのバランス取るために必要らしいけど)、急に小さな声で「あれだ」と呟いた。

「何? お城か何かあったの?」

興奮してあたしはレシテルに尋ね、いきなり頭をガシッと掴まれる。抵抗するより早く、恐らくレシテルが見えてる景色と同じものが、あたしの頭の中に流れ込んできた。
 それは、黒々としたシルエットの屋敷だった。建物は大体三、四階建ての高さで、高さの代わりに横幅がかなりあった。詳しくはあまりわかんないけど、湿地帯の中に直接建設されている…って言うにはかなり無理があるので、多分魔法か何かで水に浮かせているかなんかしてるのだろう。
 屋敷の窓と思われる部分からは、室内灯と思われる光がぼんやりと漏れてるんだけど、その光すら、何か禍々しいものを感じさせてならなかった。とても、不気味な位に静まり反っているその屋敷は、現実ではない、何処か違う世界に存在している様だ。でも、あれは現実にブルゲネス湿地帯の隠された場所に存在している。

あたしは、思わずゴクッと喉を鳴らして生唾を飲み込んだ。屋敷そのものが放っている様な不気味なオーラの様なものに当てられた気がして、少し具合が悪くなったからだ。

「…位置は確認した。戻るか」

レシテルはそう言い、あたしの頭から手を離すとスティーラーを回れ右させた。

足元のリザードマン達は届かないと分かっているだろーに、まだしつこく水鉄砲を、馬鹿の一つ覚えみたいに真上に向って吐き出し続けている。…つか、自分の吐いた水鉄砲が重力に従って落ちてきて、あいつらは何ともないんだろーか。
 何となくそんな事を考えながら、あたしは不気味に静まり返った屋敷を後に、魔の地ブルゲネス湿地帯を、アレスとリンがいるキャンプ目指して南下した。

「っあーあ!」

湿地帯を抜けてから、あたしは緊張していた体を思いっきり伸ばす。ふぅ。

「あと三日はかかるから、その間に覚悟決めておけよ。俺様は今日の見張りしてる間に詳しいプラン考えとっから」

レシテルにそう言われてあたしは何だか、らしくなく言ってしまう。

「………………皆、無事に戻って来られるよね? おばさんの所に帰れるよね?」

我ながら、何とも情けないセリフだと思うけど、実際、敵の本拠地を偵察して来てその雰囲気を体に感じたあたしは、以前ほどに事態を楽観視する事は出来なくなっていた。それだけ、あの屋敷はあたしに凄まじいプレッシャーを与えたのだ。

「馬鹿、お前がそうでどーすんだよ。フォレスタの奴、にんにく漬けにすんじゃなかったのかよ?」

珍しくもレシテルに励まされるけど、あたしはそれに茶々を入れる気分にもならなかった。これ程までに、不安や恐怖を感じた事はなかったんじゃないだろうか。

「…………………」

黙り込んだあたしに、レシテルは両手であたしのほっぺをサンドイッチにして、ぐいと上に向ける。修正された目線の通りにものを見ると、ゴーグル越しにレシテルのアイス・ブルーの目があたしを見詰めていた。

「いーか? 俺はお前らがあんまりにも楽観的で、怖いもの知らずに見えたから、こいつらなら大丈夫かもしんねぇ、て思って付いて来たんだ。俺は、フォレスタ相手にお前の事を守ってやるなんて保証出来ねぇし、他の奴等だってどーなるかわかんねぇ。でもな、気合だろ? 要は。初めっから怖がってたら、下っ端の奴にさえやられる。ハッキリゆって、俺はそんなブルッてる奴と一緒に戦うつもりはねぇ。俺だって命は惜しいからな」

…………………怒られてしまった。

まぁ、らしくない。そう。らしくなかった。世の中大抵の事は、気合でなんとかなるって思うのは、あたしのポリシーだったじゃないか。
 あたしはレシテルの手を振り払うと、ニカッと笑って言った。

「馬っ鹿じゃないの? ナニだまされてんのさ。これだから、世間知らずのオコチャマは…」

あたしのいきなりの立ち直り様にレシテルは一瞬絶句したけど、仕方なさそうに笑うとあたしの頭をワシャワシャと撫でた。こいつも、初めの時は憎たらしくて仕方なかったけど、付き合い方のコツを掴むとなかなか素直で可愛い少年だ。

「信じるモノは救われるってゆーだろ」

「あたし、神様なんて信じてないもん」

「あ、そ」

とか、あたし達はいつもの会話に戻って、湿地帯までのあの凄いスピードでキャンプに戻った。かなり長い時間の散歩に思えたけど、実際は一時間弱くらいしか経ってなかった。

キャンプに戻ると、アレスとリンはまだゲームの続きをしていて、圧倒的にアレスが負けていた。あたしはゲームに乱入して、無理矢理賭け・カードゲームに仕立て上げると、金持ちレシテルからふんだくってやろうと密かに思いつつ、四人でゲームをしたのだった。

  

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